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2007年 08月 02日
「介護予防」という信仰
いまや「健康」信仰というような現象が蔓延していて、殆どの食品会社も「健康増進」サプリメントやお菓子などをばらまいている。ジム系も開業が相次いでいる。ま、パチンコ屋に行くよりは、健康なんだろうが。 長寿命化社会、そして人口減少過程に入っているわが国で、社会的な「外部不経済」は病である、という視点が存在していることは、医療費の社会負担増を見なくてもわかる。 取り分け、高齢者の医療費を押さえ込むために、自己負担の割合を増やしたりしてきたが、厚生労働省の担当官が指をパチッと鳴らして「そうだ、老人が病気にかからないように、あるいは寝たきりにならないようにさせるには、トレーニングをさせればいいのではないのか。身体トレーニングを行うことで、元気ハツラツの身体を保つことができるのではないか」と考えた、と思しき施策がある。 つまりは「介護予防」という発想である。 その結果が、全国のディサービスにおける筋トレマシーンの設置であった。師康晴さんに聞くと、高齢者が筋トレをする意味すら見出せず、訓練のための訓練という実に馬鹿げたマシーンに恐れおののき、施設通いをやめてしまうお年寄りまででた。 高齢者がむきになって筋トレでどの程度の効果があるのか(殆どないことは言うまでもない)なんていうことは二の次で、「介護予防」という名の元に無駄金が使われた。今では施設の片隅に多くの筋トレマシーンが眠っている。 「健康維持増進」住宅だと? 介護は「訓練」ではなく、お年寄りたちの日常に寄り添うことであり、「訓練」という名で日常を破壊していくことは、彼らの自立性すら奪うことになりかねない。目的のない訓練ほど意味のないものはなく、目的は行政が作るものではなく、個々の人々の日常的な営みの中で作られていくものだ。 「介護予防」なんて、実にうろんな言葉だな、と思う。 その「介護予防」と似たような話が住宅に滑り込んできている。 「商品としての訴求」としての「健康維持住宅」とかいうのなら、ま、分からないでもない。でも、そんなことを国でやるべきことなんだろうか、と思ったのは国交省で新たに設置されたという「健康維持増進住宅研究委員会」である。「健康維持増進」なんて聞くと、私のような世代では「グリコ」などを思い出す。 この委員会の全てが駄目だなどとは思ってはいない。基礎的な部分の研究は必要だ。4つの部会からなるこの委員会は、 ①健康負荷削減部会ということで、VOCやカビ・ダニ、ハウスダストなどがどのように健康に影響を与えるのかを明確にしていく、という。 ②健康増進部会は、住宅内で発生する事故を分析して健康増進住宅の評価手法を開発し、住宅に「特定保険用食品」の概念を導入する、という。 ③設計部会は、健康増進住宅にかかわる工法、建材、設備などを把握した上で、総合的な設計手法を開発し、その有効性を検証する、という。 ④健康コミュニティ推進部会は、都市部と中山間地域でのそれぞれに適した健康コミュニティ(健康増進住宅の集まり)モデルを提案し、中長期的な評価手法を開発する、という。 (以上は建通新聞記事より) 住宅は全能ではない、という認識が必要ではないのか ①以外には切実なものはまるでない。基本的には「介護予防」であり「健康予防住宅」ということだ。つまり、こんなことは「商品化」のコンセプトの基本的検証に過ぎない。 もっと言えば、疫学的にどこまで徹底してそれらを開発することができるのか。臨床的には極めて難しい。その有効性を立証するのにどのような母集団のどのようなサンプルをきちんと集められるのか。基本的には極めて困難な部分がある。 健康問題は、バイオ・ソシオ・サイコという3つの概念が混ざり合っていて、さらにそこに立地やハードとソフトの問題が絡む。 住宅は全能の神ではない。また、全能性を指向しはじめた時から全てのものは、堕落を開始する。なぜならあり得ない夢を求めるからだ。そこには必ず嘘が混じる。あるいは過大評価が絡むからだ。 住む、ということは住宅を作るということと同義語ではない。問題は住む、ということに対して、どのような形で私たちが寄り添うことが可能な住まいを提供できるのか、ということであり、何だか、住宅で筋トレマシーン設置義務化といったような馬鹿な結果に終わらなければいいがな、と思ったのであった。 SAREX専務理事(㈱オプコード研究所所長) 野辺 公一
by KNOBEX
| 2007-08-02 13:51
| 「健康」という病
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